働き方改革の次は「休み方改革」に注目!企業はどう取り組む?
働き方改革によって、長時間労働の是正やワークライフバランスに取り組む企業が増えているいま、労働環境の改善を目指した“休み方改革”が注目されています。
現在の労働環境では、ゴールデンウィークなどの長期休暇は現実的に取得しづらいという企業の声が多くあります。「会社の風土によって取得できない」「忙しくて休暇を取れない」といった不満を持つ従業員も少なくありません。
従業員の休み方を改善することは、長時間労働の削減や心身のリフレッシュにもつながるため、生産性の向上に効果的と考えられています。
本記事では、休み方改革の重要性を考え、企業がどのように取り組むべきかを解説します。
目次[非表示]
- 1.休み方改革とは
- 2.なぜ休み方改革に目が向けられている?
- 2.1.長時間労働が常態化している
- 2.2.有給休暇の取得率が低い
- 3.働き方改革と密接な関係がある
- 4.休み方改革で得られるメリット
- 4.1.従業員満足度の向上
- 4.2.生産性の向上やイノベーションに繋がる
- 4.3.レジャー施設などの経済効果
- 5.休み方改革の主な取り組み
- 5.1.有給休暇の取得を義務化
- 5.2.キッズウィーク
- 5.3.プラスワン休暇
- 5.4.プレミアムフライデー
- 6.企業が休み方改革を進めるためには
- 6.1.業務の見直し
- 6.1.1.①不要な業務を減らす
- 6.1.2.②業務の属人化を改善する
- 6.1.3.③ITツールの導入
- 6.2.経営側と従業員の意識を高める
- 7.まとめ
休み方改革とは
休み方改革とは、政府が労働環境の改善に向けて行っている施策のひとつです。
長時間労働や休みが取れない状況が続くと、従業員の健康に影響を与えるリスクが高まるほか、業務効率が下がることにより労働生産性の低下を招きかねません。さらに、労働環境への不満から離職に至るケースも考えられます。
こういった悪循環を解消するためには、法定の労働時間を守り、適切な休暇を取得することが大切です。ほどよく休暇を与えることによって従業員の心身をリフレッシュする効果が期待でき、仕事に対するモチベーション向上によって生産性向上も期待できるようになります。
なぜ休み方改革に目が向けられている?
休み方改革が政府によって推奨されている背景には、日本ならではの労働環境が挙げられます。
長時間労働が常態化している
厚生労働省の労働状況調査によると、日本は欧米諸国と比べて年間の平均労働時間が長く、なかでも週に40時間以上の時間外労働者の割合が多く占めていることがわかっています。
また、企業の多くがパートタイマーなどの非正規労働者を雇用していますが、その比率は年々上昇傾向にあり、これにより正社員が休暇を取りづらい環境になっているとも考えられます。
働き方改革によって長時間労働の見直しが図られているものの、日本の長時間労働は常態化し、なかなか休暇が取れないのが現状といえるでしょう。
有給休暇の取得率が低い
休み方改革が求められる背景には、日本の有給休暇取得率の低さが挙げられます。厚生労働省の調査によると、日本の年次有給休暇の取得率は5割を下回っており、なかでも宿泊業や飲食サービス業、建設業における取得率の低さは顕著です。
従業員の意識調査では、有給休暇の取得に対して「ためらいを感じる」と答える人が半数以上となり、「みんなに迷惑がかかるから」という理由が多いことがわかっています。このように、社内の風土や環境によって休暇が取得しづらい状況であることが、有給休暇の取得率の低下につながっています。
(出典:厚生労働省「休み方改革ワーキンググループ説明資料」)
働き方改革と密接な関係がある
休み方改革と働き方改革、それぞれの目的を把握し、同時進行で取り組むことが望ましいとされています。
働き方改革が進められる背景には、少子高齢化による生産性人口の減少によって、人手不足が深刻化していることが挙げられます。そのほか、長時間労働は健康リスクや離職率に影響を与えかねないという理由から、長時間労働の改善や労働生産性の向上が目的とされています。
一方、休み方改革では、ワークライフバランスを意識した働き方により、従業員のモチベーション向上や健康促進、プライベートの充実を図ることが目的とされています。休みが取りづらい企業の風土を見直して適切な休暇を取ることは、企業の生産性向上や定着率にもつながると考えられています。
これら2つの取り組みは、決してどちらが正しいということではなく、並行して課題を見直すことが大切です。休みを取りやすくするためには、働き方改革としての業務効率化やワークフローなどの見直しが求められるでしょう。
休み方改革で得られるメリット
従業員に充分な休暇をとってもらうことは、企業と従業員の双方にとって良い効果が見込めます。
従業員満足度の向上
従業員の離職を防ぐためには、従業員の満足度向上に注力する必要が出てきます。
日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、現在勤務している企業で働き続けたくない理由として最も多かったのが「収入・昇給に対する不満(21.3%)」、次いで「労働条件・労働時間・休暇に対する不満(8.3%)」という結果が出ています。
そして、従業員から見た定着率向上のための方策には、「賃金水準の引き上げ」に次いで、「労働時間短縮・残業削減」が18.2%を占めました。
休み方改革により休暇を取ることは、労働時間や残業の短縮につながるだけでなく、従業員満足度を高め、定着率向上につながる有効な施策といえます。
(出典:日本政策金融公庫総合研究所「人材の定着を促す中小企業の取り組み」)
生産性の向上やイノベーションに繋がる
ほどよく休暇を取ることは、ワークライフバランスを整えるために不可欠です。
仕事以外の場所で趣味やボランティア、勉強などに時間を充てられることで、新たな発想や創造性が生まれ、企業のイノベーションにつながると考えられています。
また、プライベートを充実させることにより人生の幸福度が高まることから、従業員のモチベーション向上によるさらなるパフォーマンスが期待できます。
レジャー施設などの経済効果
休みが増えることで、家族や友人と旅行・レジャーに出かける機会が増えると予想できます。それにともなって、レジャー施設や宿泊施設などの観光業者は良い経済効果が得られます。休み方改革は、従業員や企業だけでなく日本全体の経済の活性化にもつながると考えられています。
休み方改革の主な取り組み
休み方改革を推奨するにあたって、政府は次のような取り組みを行っています。企業方針や経営課題として取り入れることで、休み方改革が実現しやすい環境へと近づくでしょう。
有給休暇の取得を義務化
有給休暇の取得率が半数以下という、世界でも低い数値となっている状況を問題視した政府は、2019年4月より労働基準法を改正し、有給休暇の取得を義務化しました。
その法律では、以下のように定められています。
「使用者は法定の年次有給休暇付与日数が10日以上のすべての従業員に対し、毎年5日の休暇を確実に取得させる必要がある」
政府はこの法改正によって「休みづらい」と言われる労働環境を改善し、2020年には有給休暇の取得率を70%に上げることを目標としています。
(出典:厚生労働省「年次有給休暇取得促進特設サイト 労働者の方へ」)
キッズウィーク
2018年から新たにスタートした施策で、地域ごと夏休みといった長期休業日を分散させ、本来の長期休暇とは違う日に連休を作るというものです。大人と子どもがまとまった休日を過ごす機会が増えることで、地域活性化や家庭教育の充実につながると考えられています。
対象は小学生から高校生までとなり、市区町村など各地域ですでに導入が始まっています。
キッズウィークの導入にともなって、子どもの休みにあわせて有給休暇が取得できる体制づくりが必要になってくるでしょう。
(出典:首相官邸「大人と子供が向き合い休み方改革を進めるための「キッズウィーク」総合推進会議(第1回)」)
プラスワン休暇
有給休暇の取得推奨を目指す施策で、土日や祝日にプラス1日以上の有給休暇を計画的に取り、大型連休を実現しようというものです。
計画的付与制度は、連休が取りづらいという従業員のためらいを解消するほか、企業は従業員の有給管理をしやすく、計画的な業務運営が可能となります。
企業や事業所の業態にあわせてさまざまな付与方法が選べますが、自社にとって導入可能な方法を選び、有給取得によってほかの従業員へ業務のしわ寄せや、不公平が出ないように付与することが重要です。
プレミアムフライデー
2017年2月から導入された制度で、働き方改革とあわせて導入が推奨されています。
毎月月末の金曜日の終業時間を「15時退社」などのように早めることで、プライベートの充実や消費喚起につなげることが目的とされています。導入については賛否両論がありますが、2019年5月の時点では約8,500件の企業や団体が導入を始めています。
導入にあたって企業が注意するべきなのは、金曜日に早上がりを強いられることで、別の日に残業や休日出勤が増えてしまうことです。管理職への業務のしわ寄せなどリスクも考慮して、現実的に導入が可能であるかを判断しましょう。
(出典:経済産業省「プレミアムフライデー ~月末金曜、豊かに過ごそう~」)
企業が休み方改革を進めるためには
休みを増やすための施策を行ったものの、ほかの従業員への業務負担が増えてしまったり、上司や同僚に対して気が引けてしまったりといった理由から休みを取りづらいと感じる従業員も現れるかもしれません。
休み方改革を実現するためには、まず休暇取得における問題点を見つけ、現実的に導入可能な制度を考えることが重要です。
次項からは、休み方改革を進めるうえで、必要と思われる取り組み内容を紹介します。
業務の見直し
休み方改革を浸透させるためには、ワークフローの見直しや、業務の効率化が重要になってきます。休暇を取得したために人手不足が起きれば、運営にも大きな影響を与えるほか、残業や休日出勤が増える可能性もあります。
人手不足による影響を緩和して生産性を高めるためにも、次の3つの業務改善が求められます。
①不要な業務を減らす
不要な業務への負担により労働時間が圧迫され、残業や長時間労働が起きる可能性が高まります。たとえば、定例会議などは慣習化されているケースも多く、効率的な会議が行えていないケースもあります。会議の頻度や参加メンバーの最適化を検討して、必要でない場合には会議の日数を減らし、ほかの業務に時間を充てることで業務効率化につながります。
②業務の属人化を改善する
有給休暇が取りづらい原因のひとつとして、社内の業務が属人化していることが挙げられます。特定の従業員にしかできない業務があると、その人が休むことで通常業務が回らなくなり、後日しわ寄せがくるといったケースもあります。
休日を取得しやすい環境を整えるためには、従業員のワークフローを見直し、担当部署ごとに業務を補えるような体制づくり、人材教育が必要です。
③ITツールの導入
業務効率を高めるための方法として、ITツールの活用が効果的です。
勤怠管理や従業員の労務管理などに管理システムを用いることで、労力の削減につながります。また、営業管理などの複雑な業務にITツールを活用することで、社内共有が容易となり、従来の業務では見えなかった問題点に気付くことができます。ITツールの導入は、業務効率化をはじめ、今後の経営課題を見つける点においても役立つでしょう。
経営側と従業員の意識を高める
休み方改革を社内に浸透させるためには、従業員と経営側が休み方改革への意識を高めることが前提といえます。
経営側が休み方改革を経営課題として掲げていても、中間管理職のマネジメントが行き届いていない場合、従業員が有給休暇を取得しやすい環境へは改善しにくいでしょう。
実際に休み方改革を進めるにあたって、経営者側や管理職が行うべきこととしては、
- 有給休暇取得を促進する方針を全従業員に発信する
- 各部署の事業内容を踏まえ、有給取得の目標を設定する
- 中間管理職が休み方改革の対策案や検討を行う
などが挙げられます。
経営側や管理職が有給取得に対して意識を高めることが、休み方改革を進めるうえでのポイントとなるでしょう。
一方、従業員が休みを取りづらいといった意識を持つ場合には、従業員へ休み方改革の重要性を理解してもらう必要があります。有給休暇の計画的付与制度を導入したり、社内で休み方改革の研修を実施したりするなどが効果的です。
まとめ
労働時間が長い、休暇を取得しづらい、といった習慣が根付いている日本だからこそ、休み方改革は目を向けるべき課題のひとつといえます。
充分な休暇を取ることは従業員満足度の向上につながるだけでなく、生産性の向上や、ひいてはイノベーションにつながる可能性もあります。
また、労働基準法によって有給休暇の取得が義務付けられたことからも、従業員の労務管理の強化、そして休暇を取得しても業務に支障が出ないように業務の棚卸しをすることが重要です。