【働き方改革のまとめ】目的と概要をおさらいしよう
2019年4月1日より、本格的に働き方改革が始動しました。
人手不足や長時間労働、働き方の多様化などに対応するべく、労働環境の改善が必要になっています。
政府は働き方改革の推進にあたり一連の労働法改正を行っているため、企業は義務化されている法律や推進制度について正しく理解しておく必要があります。
法令遵守や労使間のトラブルを防ぐためにも、早急かつ適正に対応しましょう。
本記事では、働き方改革に向けて企業で対応が必要となる法改正の内容や、取り組むべき制度の概要についてまとめています。
目次[非表示]
働き方改革に向けて
働き方改革関連法の可決により、企業は従業員を雇用するにあたって以下の点について見直されることとなりました。
①有給休暇の取得が義務化
②残業時間の規制
③雇用形態による待遇差の解消
④従業員の労働時間の把握義務
長時間労働による心身の不調が問題視されている現代において、企業は従業員の労働時間の削減や健康面などの配慮が必要とされています。
また、高齢者の労働参加や共働き世帯の増加などにより、非正規雇用労働者として働く人の数も増加しています。多様な働き方に対応するためには、正社員との不合理な待遇差はあってならないものとして、新たにパートタイマーと有期雇用労働者に対して待遇改善に向けた規定が設けられました。
これらの法改正に伴い、企業が働き方改革を行うには次に挙げる5つの対応が必要となります。
①サブロク協定
労働基準法では、従業員の法定労働時間を1日8時間、1週間40時間以内と定めています。この法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合には、サブロク協定の締結が必要です。
必要となる点は、以下のとおりです。
① 時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめてください。(指針第2条)
②使用者は、36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負います。また、労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることに留意する必要があります。(指針第3条)
③時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にしてください。(指針第4条)
④臨時的な特別の事情がなければ、限度時間(月45時間・年360時間)を超えることはできません。限度時間を超えて労働させる必要がある場合は、できる限り具体的に定めなければなりません。この場合にも、時間外労働は、限度時間にできる限り近づけるように努めてください。(指針第5条)
⑤1か月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間(※)を超えないように努めてください。(指針第6条)
(※)1週間:15時間、2週間:27時間、4週間:43時間⑥休日労働の日数及び時間数をできる限り少なくするように努めてください。(指針第7条)
⑦限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保してください。(指針第8条)
⑧限度時間が適用除外・猶予されている事業・業務についても、限度時間を勘案し、健康・福祉を確保するよう努めてください。(指針第9条、附則第3項)
(出典:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働 について留意すべき事項に関する指針」)
サブロク協定は労働基準法第36条に基づいていることが前提となりますが、サブロク協定の範囲内であっても労働者に対して安全配慮の義務があります。
また、サブロク協定を締結するには、時間外労働を行う業務の種類をはじめ、1日や1か月、1年あたりの時間外労働の上限を定め、所轄労働基準監督署長を届ける必要があります。
②労働条件の交付
従業員と労働契約を締結するにあたり、労働条件を書面等で交付する必要があります。雇用契約時に労働条件を示さなかったり、労働条件を口頭のみで伝えることは、法に抵触することとなるため、注意が必要です。
これまでの労働基準法においても労働条件の明示が義務付けられていましたが、明示方法は書面に限られていました。しかし、2019年4月1日以降は、労働者が希望する場合はメールやSNSなどのメッセージ機能で明示しても良いと一部改正されています。
明示する内容については、
a 労働契約の期間
b 有期労働契約の更新の基準
c 就業場所・従事すべき業務
d 始業・終業時刻、所定労働時間超えの労働の有無、休憩時間、休日、
休暇、2交代制等に関する事項
e 賃⾦の決定・計算・⽀払⽅法、賃⾦の締切・⽀払時期、昇給に関す
る事項
f 退職(解雇を含む)に関する事項
(出典:厚生労働省「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」)
などが挙げられます。
③就業規則の届け出
常時10人以上の従業員を雇用している企業は、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出が必要となります。就業規則に記載が必要な事項としては、始業時刻や休憩時間、休日に関する事項のほかにも、賃金や退職に関する事項も必須です。
また、就業規則の作成は企業側が一方的に行うものではなく、労働者の意見も取り入れなければならないと定められています。
④労働者名簿の作成
2019年4月1日より、“労働時間把握の義務化”が労働安全衛生法として新たに盛り込まれました。
労働時間の正確な把握によって適切な勤怠管理を行うことで、長時間労働や健康へのリスクを抑制するというものです。
対象者は、管理監督者や裁量労働制が適用される人を含むすべての労働者です。
労働時間の把握方法としては、タイムカードや勤怠管理システムなどの客観的な記録によって行うことが求められています。
こうした労働時間の把握義務に備えて、勤怠管理方法の見直しが必要となるでしょう。
⑤待遇差の是正
働き方改革関連法のひとつとして、“同一労働同一賃金の適用”に関するガイドラインが整備されました。パートタイマーや派遣社員などの非正規雇用労働者が増加しているなか、雇用形態による不合理な待遇差の改善を目的とした制度です。
このガイドラインでは、正社員・正職員と同じ業務において同一の貢献をした場合には、同一の待遇を与えなければならないとしています。給与やボーナスなどの各種手当にとどまらず、福利厚生の利用、役職手当などの支給なども当てはまります。
非正規雇用労働者を雇用している企業は、“同一労働同一賃金ガイドライン”に基づき、正社員・正職員との不合理な待遇差の解消に努めるともに、従業員に対して待遇に関する説明を行う必要があります。
残業の上限規制(義務)
2019年4月1日(中小企業は2020年)から、時間外労働の上限が法律で規定されています。
上限は月に45時間、年に360時間となり、特別な事情があり労使間で合意が成されている場合においても、以下の4項目を守る必要があります。
■特別な事情がある場合の上限
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、
・時間外労働 ・・・年720時間以内
・時間外労働+休日労働 ・・・月100時間未満、2~6か月平均80時間以内
とする必要があります。
原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月までです。
(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)
従来は、法律上残業の上限が設けられておらず、罰則による強制力が低いものとされていました。しかし、今回に改正によって、企業が規定を超える残業を行った場合には罰則を受けることとなります。
なお、建設事業や自動車の運転業務、医師、鹿児島県および沖縄県の砂糖製造業に関しては、上限規制の適用が5年間猶予されます。
■関連記事
働き方改革法案施行による残業規制。規制との向き合い方について
勤務間インターバル制度の促進
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までに一定時間以上の休息時間を設ける仕組みです。
一定基準の休息時間を与えることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保し、長時間労働の防止や健康維持につなげることを目的としています。
この制度は法律上義務ではありませんが、企業の努力義務とすることにより、長時間労働の防止をはじめ、ワークライフバランスの実現を目指します。
年次有給休暇の時期指定義務(義務)
企業は、一定の要件を満たす従業員に対して年次有給休暇を与える義務があります。
しかしながら、企業の風土や、上司や同僚が有給休暇を取得しないといった理由で有給休暇を取得しづらい従業員が多く、日本の有給取得率はきわめて低調といわれています。
働き方改革を推進するにあたり、ワークライフバランスの実現や心身の疲労回復のための有給休暇は欠かせません。
このことから、2019年4月からすべての企業に対して企業が時期を指定して有給を取得させるよう義務付けられました。
対象者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)に限ります。
労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、使用者が取得時季を指定して与える必要があります。年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者に対しては、使用者による時季指定は不要です。
(出典:厚生労働省「年次有給休暇の時季指定義務」)
割増賃金率の引き上げ (義務)
労働基準法では、時間外労働や休日労働、午後10時から午前5時までの深夜労働をさせた場合に、通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金を支払う義務があると定められています。さらに月60時間を超える場合には、50%の割増賃金を支払う必要があります。
割増残業の賃金率については、これまで60時間を超える割増残業賃金率が“大企業50%”、“中小企業25%”だったものを、中小企業においても50%へと引き上げを行っています。
この法改正によって、企業は従業員の労務管理をより厳格化する必要性が高まり、正確な勤怠管理や給与計算ができる管理体制の見直しが求められています。
裁量労働制や管理監督者の労働時間の把握 (義務)
労働基準法では、裁量労働制の適用者や管理監督者を除く従業員を対象に、適正な労働時間の把握や記録を行うように示されてきました。
しかし、今回の働き方改革関連法では、労働安全衛生法に基づいてこれまで該当しなかった裁量労働制の適用者や管理監督者も労働時間の把握が義務づけられました。
使用者は労働者の始業終業時刻を正確に把握するとともに、タイムカードやパソコン、勤怠管理ツールなどによる客観的な方法で記録しなければなりません。
さらに、時間外労働が月80時間を超える従業員から申し出があった場合には、医師による面談指導を実施する必要があります。
フレックスタイム制の拡充
フレックスタイム制とは、あらかじめ定めている1日の労働時間の範囲内で、始業や就業時刻、労働時間を従業員が自ら決められる制度で、生活と仕事と両立しながら効率よく働くことができます。
これまでのフレックスタイム制は、清算期間の上限が「1か月」までとされていたため、労働者は1か月の中で生活に合わせた労働時間の調整を行うことはできましたが、1か月を超えた調整をすることはできませんでした。
今回の法改正によって、清算期間の上限が「3か月」に延長され、月をまたいだ労働時間の調整により柔軟な働き方が可能となります。
(出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)
従来の1か月以内の清算期間の場合、総労働時間を超過した場合は割増賃金を支払う必要があり、総労働時間に満たない場合には欠勤扱いとなるケースが見られていました。しかし、清算期間が3か月に延長されたことで、超過した月の労働分を労働時間が足りない月と相殺できるようになりました。
高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度は、一定の業務を行う一定以上の年収がある従業員に対して、労働基準法で定める残業や休日等の規制が対象外となる制度です。
対象となる労働者については、
(1)使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること
(2)使用者から確実に支払われると見込まれる1年間当たりの賃金の額が少なくと
も1,075万円以上であること
(3)対象労働者は、対象業務に常態として従事していることが原則であり、対象業
務以外の業務にも常態として従事している者は対象労働者とはならないこと
(出典:厚生労働省「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」)
となります。
対象業務には、新たな技術開発や商品開発、金融工学等の知識を用いる開発業務、企業運営についての調査や分析、考案業務など、専門的な分野が挙げられます。
この制度の導入により、対象の従業員は働き方を自己判断によって柔軟に選べるというメリットがあります。
ただし、労働時間や休日による法律上の規定が設けられていないため、過度の長時間労働や連続勤務が起こり得ます。使用者は年間104以上、4週間の内4日以上の休日を与える休日確保措置、労働時間を把握する健康・福祉確保措置などを講じなければなりません。
産業保健機能の強化
長時間労働や過労による健康リスクが懸念されていることにより、企業は産業医と連携し、従業員の健康管理を強化することが求められています。
これまでは、産業医は従業員の健康確保のために必要があると認める場合のみ事業者に勧告できる仕組みでした。しかし、今回の法改正によって、事業者は従業員の健康管理のために必要な情報を産業医に提供しなければならないこととなりました。
産業医から勧告を受けた場合は、その内容を衛生委員会に報告しなければならず、健康確保に向けた迅速な対応が必要となります。
また、事業者は産業医等が健康相談に応じる体制を整備するとともに、従業員の健康情報に関する管理を適正に行い、安心して健康相談や健康診断が受けられる体制づくりが求められています。
公正な待遇の確保
働き方の多様化や共働き世帯の増加などを背景に、パートタイマーや派遣労働者といった非正規雇用労働者が増えてきています。
それにともない、給与や賞与、福利厚生などのさまざまな待遇差が問題視されることになり、今回の法改正によって不合理かつ差別的な待遇差を設けることは禁止されることとなりました。
職務内容や配置などの待遇差を判断するための規定として、“均衡待遇規定”や“均等待遇規定”が整備され、対象者はパートタイム労働者に加えて有期雇用労働者も該当されることになります。
企業は賃金の決定基準や職務内容による待遇など、細かなルールの見直しを行うとともに、“同一労働同一賃金ガイドライン”に基づいた改善が求められます。
なお、非正規雇用労働者が正社員との待遇に差がある場合には、対象の授業員に対して内容の理由説明を行う必要があります。
まとめ
従業員と企業、双方にとって大きな変化となる働き方改革。
残業時間の上限規制や有給休暇の取得など新たな義務が発生したほか、人材確保や健康維持を目的としたさまざまな制度が実施されています。
これらの法改正により、従業員の勤怠管理の重要性が高まったほか、職場環境改善に向けた迅速な対応が求められています。まずは法律や制度の目的を正しく理解し、法律上義務となった制度にきちんと対応できているか、今一度就業規則や労務管理を見直す必要があります。
そして、努力義務である勤務インターバル制度やフレックスタイム制なども積極的に検討していくことが必要といえるでしょう。